『太宰治全集』 筑摩書房  昭和31年刊  目次





大正14年【1925】
3月
『最後の太閤』
太閤秀吉の臨終間際を描く。太宰治15歳!
見事な人生ダイジェストな短編。

大正15年【1926】
11月
『モナコ小景』
モナコの賭博場で顔の青さを競う私とフリッツ。そこへ同じく青い顔の娘・ニイがやってくるが…。

昭和4年【1929】
2月
『鈴打』(小菅銀吉)
太鼓持が若旦那に語る形の独白。
哀愁と滑稽さの表裏。

昭和8年【1933】
2月
『列車』
いけすかない友人が捨てた女性・テツさんが故郷に帰されることになる。
本当の愛だと思っていたものも、身分の違いにより崩れる。
その女性を駅で見送る私と妻。

3月
『魚服記』
滝壺に落ちる男、目撃した少女。
親と娘の関係性。魚になりたい。

『魚服記に就て』
「魚服記」の謂れと執筆動機。魚になりたかった。

4・6・7月
『思い出』
少年時代の思い出の記。
女中との恋、服装へのこだわりなど。

昭和9年【1934】
4月
『断崖の錯覚』0401
作家になりたい私が、嘘ついて大変な事になる話。殺人の告白、という、いつもの太宰治のムードがありながらほんのりミステリーな作品。
初期作品で、名義は黒木舜平となっている。
『葉』
断片的に色んな所に飛ぶ文章。
後半の花売の外国人の話が印象的。
咲くように。咲くように。

7月
『猿面冠者』
文学に触れすぎて筆が進まなくなった男のもとに、3通の風の便りが届くのはどうだろう、という小説。

10月
『彼は昔の彼ならず』
大家をしている青年と、借家に住む青扇との交流。彼と我との間に、どれほどの差があろう。

11月
『ロマネスク』
昔話調に語られる、三人の男の半生。
太郎、次郎、三郎がラストで…。

昭和10年【1935】
5月
『道化の華』
心中で一人生き残った葉蔵が、海辺の療養院で仲間と共に過ごす。
このときから、このテーマに向き合ってたのか。

7月
『玩具』
赤児の頃の記憶を書こう!と面白い事を思いついた作者が苦悩する。作者介入スタイル。

『雀こ』
故郷の言葉で書かれた、響きに味わいある作品。子供の遊ぶ風景。

9月
『猿ヶ島』
どこかに漂着した私は一匹の猿と出会い…って所からすごい転換。そう来たか!

10月
『ダス・ゲマイネ』
私・佐野次郎の語りで紡がれる、
友人の馬場との交流の物語。
二人で雑誌を作る計画をし、佐竹、太宰治とクセモノたちが合流し…。
個性豊かな人物たちの、容姿の描写がまた細かくて面白いです。

11月
『逆行』
三篇の小品から成る。
2つ目の「決闘」が、コミカルな太宰節。

『人物に就いて』1123
乃木将軍の事をよく考える。からの、通とは、という話。三人の通を紹介。

12月
『「地球図」序』
『ダス・ゲマイネ』で散々な批評を喰らって、その体験をもとに『地球図』を書いたよ、という序文。

『地球図』
日本にやってきて捕縛された宣教師・シロオテの記録。

昭和11年【1936】
1月
『めくら草紙』
マツ子とのエピソードを中心にしながら、小説を書く私の苦悩が噴出。花の名前の列挙などで喘ぎ喘ぎ幕へ。

4月
『陰火』
短編集的な。尼が夜に訪ねて消えてゆく話面白い。

5月
『古典龍頭蛇尾』
日本語とか日本の古典について。
だめだ、小説を書きたい。

『雌に就いて』
男二人が「こんな女がいたら死なないなぁ」という理想の女の話をする。やがて空想旅行へ。岸田國士の『紙風船』を思い出す。

7月
『虚構の春』
太宰治の元に届いた手紙をひたすら並べていく。本物創作取り混ぜて浮かび上がる、太宰治という人。

10月
『創生記』
あっちへ行ったりこっちへ行ったりな作風。
途中で別の作品が挿入されたり。
芥川賞の話が面白い。
『喝采』
演説っぽく語られる身の上話。
友・中村地平の話に集約していくが話題ころころ。
チェーホフ『タバコの害について』をどことなく彷彿とさせる。

『狂言の神』
山での首つり未遂について。始めは距離を取り描くも、たまらず本人の語りへ。
山へ入ってからの情けない疾走感。

11月
『先生三人』1101
自分は良い師に恵まれた。井伏、佐藤、菊池。

昭和12年【1937】
1月
『春夫と旅行できなかつた話』0101随筆
何か怨念こもってる短文。
『音に就いて』0120随筆
様々な物語に登場する「音」について考える太宰。
『二十世紀旗手』
支離滅裂的に並べられる言葉の数々とそこに宿る勢い。と思って声に出して読んだらリズムがべらぼうに良い。『走ラヌ名馬』に似てる。作家の魂の咆哮。

3月
『あさましきもの』
タバコ屋の娘、夜道のキス、嘘の咳。
エピソード3つ。

4月
『HUMAN LOST』
精神病院に入れられた経験を、日記形式で描く。

9月
『檀君の近業について』0901随筆
檀君の仕事についての賞賛。

10月
『燈籠』
「牢はいったい誰のためにあるのです。お金のない人ばかり牢へいれられています」
付き合っている男にいい水着を着せたい一心で水着を万引きし、捕まり、演説をぶち、男には学問のない女と見下される、さき子の独白。

12月
『思案の敗北』1201随筆
愛についてなど色々考える。笑いは強い。
『創作余談(こわい顔して)』1210随筆
創作余談…困っちゃう…作家は見栄を張りたい。

昭和13年【1938】
2月
『「晩年」に就いて(他人に語る)』2.1
「美しさは、人から指定されて感じいるものではなくて、自分で、自分ひとりで、ふっと発見するものです。」

3月
『一日の労苦』3.1
生活そのままを書く、というスタイルを自己肯定していくスタイル。

5月
『多頭蛇哲学』5.1
ゲシュタルト心理学、全体主義、象徴。伝えようとして伝わらぬ、もどかしさ。

9月
『満願』
医者と友達になる。そこに見舞いにやってくる奥さんの辛抱に美しい光景を見る。何の辛抱か、何のさしがねか。

10月
『姥捨』
不義理を行った妻と、生きていけなくなり、心中の旅へ。二人とも心中し損ねて、男は別れを決意。
心中に踏み切るまでの、女は生かそう、という心理描写。からの、別れの決意が光る。

『富士に就いて』10.6
富嶽百景の短い版みたいな感じ。

12月
『九月十月十一月』
御坂での滞在と甲府の街のこと。

昭和14年【1939】
2月
『I can speak』
女工と、その酔っ払った弟との会話。
大切な光景。太宰再起への、忘れられぬ景色、歌声。

3月
『富嶽百景』
御坂峠で太宰が出会う、色々な富士とその記憶。
富士に、励まされる。
『黄金風景』
昔いじめ抜いた女中・お慶との再会。幸せそうな光景に、自らも再起の力を得る。美しい短編。

4月
『女生徒』
女生徒の、朝起きてから寝るまでの感情のジェットコースター独白。絶品。

5月
『当選の日』
「黄金風景」で賞を受賞した太宰先生の、幸せな気持ち。ほのぼの。
『秋風記』
死にたい私と女Kの湯河原・熱海旅行。
役に立たないものを上げる遊びが印象的。物寂しい雰囲気が全体に漂う。
『花燭』
どうにも人をもてなしてしまう男爵は、昔女中だった娘と再会する。彼女は今女優なのだが、結婚についての悩みを相談され、彼女の弟に会い…。不思議な余韻がある作品。

6月
『葉桜と魔笛』
若くして病死した妹と、手紙のやりとりをしていた男と、自分と、父。優しい嘘の話。切ない。

10月
『美少女』
甲府滞在中、湯村の温泉で素晴らしい美少女を見た。
後に床屋でも出会い、なんだか嬉しい気持ちになる、悪徳物語。ほのぼの。

『畜犬談ー伊馬鵜平君に与えるー』
犬が怖い、憎いとさんざこき下ろしていた作者が、犬に襲われぬようにへつらっていたら逆に好かれてしまい、犬を飼う。愛情すら感じる。
「弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ。」

『ア、秋』
作家の創作ノートから、「ア」の部が披露される。

10月
『デカダン抗議』
幼少の頃に一目見て惚れた芸者に、大人になって再会する。ロマンチシズム。

11月
『おしゃれ童子』
太宰治、幼少期のおしゃれ黒歴史。
『皮膚と心』
できものが身体中に出来てしまった女の独白。
集合体恐怖症的な所から美しさが命、まで。
皮膚の潔癖、心の潔癖。ぐるぐる考えてぽかんと解決。
「女は、肌だけで生きて居るのでございますもの。」

昭和15年【1940】
1月
『困惑の弁』1.20
この雑誌の読者は、私のような正体不明の作家の物は読みたくないであろう。志は高い方がいい。私には、こんな風になっては駄目だと言う事しか出来ない。

『心の王者』1.25
学生は神のそばにいる権利がある。
何者にもなってはいけない、自由を謳歌せよ。

『このごろ』1.30
パラオの従兄の話、戦地の友人の話、犬が怖い話。

『俗天使』
あんまり良いものに触れてしまって己の無力さを知る。書けない、という所から過去が噴き出し『人間失格』の構想まで語る。その後、『女生徒』の女の子で自分を励ます。「おじさん、元気でいて下さい」

3月
『酒ぎらひ』3.1
お酒を沢山飲んだ話。酒は汚らしくて家に置いておきたくない、整理しよう、と酒を飲むかわいい人。

『知らない人』3.1
正月に出来物で苦しんだ話から、知らない人の追悼文を読んで、その人を奇跡のように思う。人に迷惑をかけない、人。

『老ハイデルベルヒ』
学生時代の良い思い出の詰まった三島を再訪し、昔と違った感覚に襲われ、陰鬱な気持ちになる。
こういう事、ありますね…。

『作家の像』
随筆は苦手だ、何を書いたらいいか取捨選択がまるで出来ない、という話。

4月
『義務』
義務によって生かされている。
書ける時には依頼は断らない。メロス的リズム。
『誰も知らぬ』
41歳の安井夫人が語り始める、若かりし日の、一瞬の心の燃え上がり。あれは何だったのでしょう。
『善蔵を思う』
三鷹へ引っ越し、百姓女風の者からバラを売り付けられ断れない。
故郷の名士を集める会合にうっかり出席してしまい、
故郷に錦を、という思いと、
自分は誰にも相手にされない、
という思いとの間で引き裂かれ、
酒を飲み、暴言を吐く。
名誉を、諦めろ。
後日、バラは大層いいものだと友人に聞かされる。
「まんざら嘘つきでもないじゃないか」
嘘から出る美しさも、ある。

5月
『走れメロス』
教科書でもお馴染みの走れメロス。
素直に味わうもよし、ツッコミを入れて読むも良しのリズムの化物作品。
『大恩は語らず』発表は昭和29年7月1日
恩讐について書いて、と頼まれて案の定うまくいかない太宰治。4〜5枚のエッセイばっかり書きたくない!

6月
『『思ひ出』序』0601
私の仕事はこれからだ。

『女の決闘』(1〜6月の連載)
オイレンベルグの同名小説に解説と加筆する形で書かれたもの。素材は調理しなければ、という太宰論。素材のままではいかん。

『三月三十日』
満州に住む人に向けたエール。
自身を「国策型で無い無力な作家」と書くなど、戦争の影も濃い。

7月
『盲人独笑』
「葛原勾当日記」盲人で箏曲家の葛原の日記の中から、最も多感なある一年を抜粋・脚色したもの。木活字で書かれた日記の風を出すためにひらがなが多く、独特の風情がある。

8月
『貪婪禍』8.5
ある地方の宿に泊まって。風景を見ても生活を考え、楽しめない。楽しみに悲しみを、悲しみに無を。

9月
『失敗園』
不格好な庭に精一杯生きている植物達が語り出す。
面白い。

10月
『一燈』
芸術家の持ち物は鳥籠一つ。この例えがグッとくる。皇太子の誕生時のエピソードと、これからの戦争の時代へ。
『砂子屋』10.30
砂子屋書房の山崎剛平を褒める。褒め方下手か!
『パウロの混乱』10.31
人にさんざん人身攻撃を受けたパウロの物語を、今官一くんが書いているらしい。激しく応援したい。


11月
『リイズ』
ラジオ放送用として。画家の杉野くんとその母、そしてやってきたモデルの話。見当違いのモデルを連れてきてしまった母の真意が、じんわりと来る作品。
『きりぎりす』
女の独白。画家の旦那が、自分にしか理解できぬ天才だと思っていたが、めきめき売れ、その様子がまるで愚物のようになっていく。お別れします、という。「心の中で、遠い大きいプライドを持って、こっそり生きていたいと思います。」「この世では、やはり、あなたのような生きかたが、正しいのでしょうか。」

12月
『田中君に就いて』12.15
田中英光の『オリンポスの果実』への序文。文学は人を堕落させるものではない。生活は弱く、作品は強く。

『ろまん燈籠』昭和15年12月〜昭和16年6月
入江家の五人兄妹がリレー形式で綴る物語、滲む家族の人柄。暖かい雰囲気が満ちる一作。

昭和16年【1941】
1月
『東京八景』
これまでの半生振り返り、みたいな作品。
芸術は、私である(笑)
ラストの見送りのエピソードがとても暖かい。
こんな私だからこそ、力になれる!
『清貧譚』
贅沢を嫌う貧乏な男が、ある困窮した姉弟に出会い、自分の家に住まわせる事にする。
弟は菊を育てるのが大層上手で繁盛し、男に優しくしようとするのだが…。

『みみずく通信』
学校へ講演に行った時の話を手紙で。
講演、イタリア軒、佐渡へ行きたい。
「他に何をしても駄目だったから、作家になったとも言える。」

『佐渡』
新潟に講演に行った後に向かった佐渡のこと。何もないのが分かっていても見たくなる、人生もまた。
島を勘違いしたかと狼狽える様がかわいい。

2月
『犯しもせぬ罪を』0220
宮崎譲の詩集『竹槍隊』に寄せる序文。シンパシーが感じられる。同時代の人。

5月
「『東京八景』あとがき」0503
読者よ、解説に頼りすぎないでくれ。短編集へのあとがき。


6月
『令嬢アユ』
友人・佐野君の恋の話。
釣りをしていて出会った時に出会った令嬢との清々しい恋の話と、オチ。アユって、そういう事か…。
徴兵へのチクリと刺さる一言も。

『「晩年」と「女生徒」』6.20
本の売れ行き。富をむさぼらぬように気をつけなければ!

7月
『新ハムレット』
シェイクスピアの『ハムレット』に題材を取りながら、そこここに太宰イズムが取り入れられたドタバタ劇。翻弄し、翻弄される人々の行きつく先は…。

11月
『風の便り』
作家同士の手紙のやり取りとして書かれる、太宰治の作家論・仕事の流儀。

12月
『誰』
学生にサタンよばわりされ、自分は悪魔なのかと心配になり研究しまくる私。先輩のもとも訪れ、結果自分はサタンではなく馬鹿だ、という所に落ち着くが…。

昭和17年【1942】
1月
『或る忠告』0101『新潮』
ある詩人が来て自分に吐いた辛辣な言葉、という体で描かれる。自身の内なる声?
『食通』0105『博浪沙』
食通って大食いの事だと思ってた、という話。故に我は大食い。
『恥』
女性一人称。小説家の書く内容を信じ込んで手紙を出し、家を訪問し、小説に書いてある事とまるで違う、嘘つき!と感じた出来事を友人に語る。こわい(笑)

『新郎』
一日一日を大切に、新郎のような気持ちで生きる。やたらに前向きなエネルギーを持つこの作品が書かれたのが、日米開戦の日だという。染みる。滅びを前にした、輝きか。

2月
『十二月八日』
英米との開戦が報じられた日の、日本の一主婦(太宰の妻)の行動と思考の記録。『新郎』と対をなすかのような作で、こちらは生活感がすごい。女性一人称で綴られる、民衆と戦争。

『律子と貞子』
姉妹のどちらと結婚しようか迷っている、という相談を受ける。姉は真面目、妹はよく構ってくれる。
聖書を引用して「妹」という印象をつけるも、男は姉と結婚。なんたることだ!

4月
『一問一答』0411『芸術新聞』
インタビュー形式。正直であること、愛、キリスト教のこと。
「『風の便り』あとがき」0416
責任の加重を感じる、大事な時期だ。

5月
『水仙』
世辞で持ち上げられているのか、本当に才能があるのか。その狭間で狂気に落ちた人妻の話。蜆を食べる太宰がかわいい。
「『老ハイデルベルヒ』序」0520
懐郷の思いの作品を集めたよ。戦時の紙不足。

6月
『正義と微笑』
少年時代・芹川進が役者を志し成長していく爽やかで瑞々しい長篇。
『待つ』
駅のベンチで「何か」を待ち続ける女性の独白。
『無題』0628『現代文学』
きっちり456字の原稿を依頼されたことへの文句(笑)
「『女性』あとがき」0630
女性語りを集めたよ。タイトルは簡潔に。

7月
『小さいアルバム』
来客モノ。客をもてなす方法がなく自分のアルバムを見せる。人生振り返りのような感があり、自分の事をやや距離を取って見ている哀愁がある。

『小照』0713『新日本文学全集14』の月報
井伏さんの事を書けと言われたが、書かないって約束したんだよなぁ…。こわいなぁ。

8月
『炎天汗談』芸術新聞
太宰治の修行論。
進歩がないと言うが、退歩しないというのはたゆまぬ努力の成果である。面白い。

9月
『天狗』0901『みつこし』
凡兆・芭蕉・去来の連句に茶々を入れて、彼らの句のリレーの心境を解説する。去来が愛すべきディスりを受けていて面白い。こんな事を言ってる私は天狗になってる、と鮮やかに結ぶ。

10月
『花火』後に『日の出前』と改題(昭和21年12月)
実際にあった日大生殺し事件にインスピレーションを得たとされる小説。放蕩で家族に迷惑をかける兄を必死で支える妹。だが、彼女の幸福とは…。
三人称視点で描かれる冷たい作品。

昭和18年【1943】
1月
『黄村先生言行録』
黄村先生と書生の私の記録。
山椒魚にはまった先生が巨大山椒魚を探し求める
メインエピソードがとにかく面白い。

『禁酒の心』
太宰治、禁酒を語る。
戦時下の酒回り事情が活写されている作品。

『『富嶽百景』序』
生き様がテーマ。

『金銭の話』
お金が貯まらないのです。

『花吹雪』雑誌未発表
黄村先生二作目。
先生、武術こそ男の道、と言い始める。
軟弱な私の自己批判が挟まり、
入れ歯と花吹雪事件でオチ。おもしろ。

2月
「櫻岡孝治著『馬来の日記』序」
序文。戦地に行った友人の本。

4月
『鉄面皮』
『右大臣実朝』の宣伝をしつつ、偉人とは、訓練に出て思わぬ褒め方をされた話など。

7月
『小さいアルバム』
来客に話すネタが何もないので自分のアルバムを見せる、という語り作品。人生振り返り的な所もあり。

10月
『不審庵』
黄村先生最終作。今度は先生からお茶会のお誘い。
茶道の勉強をして臨んだ私だが、先生の不審な茶会にはルールも通じず…ドタバタ茶会の様が面白い抱腹絶倒シリーズ最終作。

『作家の手帖』
七夕の願い事の話、曲馬団の話、タバコの火を貸す・借りる話。生きづらい人である。

昭和19年【1944】
1月
『佳日』
結婚する事になった学生時代の友の為に右往左往する私。「名誉の家」という感覚。表現がまずい、という感覚。
『革財布』
落語のいわゆる「芝浜」のあらすじ説明から始まり、その典拠を論ずる鴎外の話、そして自分が考えた新設定の自慢に繋がる軽妙な一篇。

3月
『散華』
亡くなった二人の友人のこと。
特に、アッツ島で玉砕した詩人の三田くんの事。三田くんの手紙を遺したい心。

4月
『芸術ぎらい』0401
雑誌「映画評論」に書いた文章。
映画は「芸術的」雰囲気を追うことをやめなければ!
太宰の創作論もあり。

5月
『雪の夜の話』
女性一人称語り。
美しい雪景色を見て、それを目玉に焼き付け、姉に見せてやろうとする妹の話。
『一つの約束』とほぼ同様の、海に飲まれた男のエピソードが登場。

8月
『郷愁』
津村信夫追悼の文章。詩人は嫌いだが彼は好き。
いい家、笑顔、思い出、天国と地獄。別れ。
亡き人への想いの詰まる暖かい文章。好き。

9月
『東京だより』/【青空文庫で読む】
戦時中、工場に行った時の話。
皆が同じ顔に見える中、一人だけ顔つきの違う少女と出会った私は…。

昭和20年【1945】
1月
『新釈諸国噺』
井原西鶴の作品から着想を得て太宰が綴る、色々な物語集。『貧の意地』から始まり、カラーの異なる様々なお話が展開される。
『竹青』
人生上手くいかず烏になりたいと願った男が、本当に烏になる。烏の美女の竹青と結ばれて上機嫌だが…。
生きてゆくことのままならなさ、面白さ。
硬さと柔らかさの見事な融合、この作風、面白い。

10月
『お伽草子』
太宰が練り直すお伽噺たち。こぶとり爺さん、浦島太郎、カチカチ山、舌切り雀。桃太郎は諦めたらしい(笑)どれも爆笑の類だが、舌切り雀になんとも言えぬ味がある。
『パンドラの匣』10月〜翌1月
結核療養所に暮らす青年の爽やかな手紙。周囲の人々や淡い恋模様。

昭和21年【1946】
1月
『庭』
青森に疎開し、終戦。兄と草むしり。
太閤と利休の話、兄と自分。ゆったりした雰囲気。
『親という二字』
終戦後、死んだ娘の口座から酒代を出すじいさんに会った話。

2月
『嘘』
疎開先で聞いた、脱走兵にまつわる話。
村の名誉職は脱走兵の妻に事情を話にゆくが…誰のための嘘か、何のための嘘か、ラストに仄めかされる男女の色々。

『貨幣』
百円紙幣に女性の人格を持たせ、その視点から見た戦中・戦後の混沌と、そこに生きる人の強さを描く。
最も卑しいとされる者の、最も美しい行為。

3月
『やんぬる哉』
疎開先で自分の知り合いだという男の家に呼ばれ、疎開者は図々しい、工夫が足りない、との言葉を延々と聞かされる。

5月
『津軽地方とチエホフ』
チェーホフの『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』の台詞を引用して太宰が語る、最近の津軽の「人」
『未帰還の友に』
出征した友人の一時帰還。彼と飲むうちに、昔、酒欲しさに飲み屋の娘と彼をくっつけようとした話になり、娘も彼も本気だと分かる。
しかし彼は死ぬ身ゆえ、あれは全部先生の計画だと断った。これじゃ僕が悪者みたいじゃないか。

7月
『チャンス』
チャンスによる恋など下卑たもの!
雀焼き食べたいの一念。

9月
『同じ星』/【青空文庫で読む】
自分と同じ誕生日の詩人・宮崎譲氏からお手紙を貰った話。
とても好い人だった。この誕生日の人に幸せな人はいないと思っていたのに。

10月
『雀』
復員してきた幼馴染から聞いた話。戦時の暴力の「二日酔い」を日本で見せてしまった嘆き。戦争は悪いものだ、という言葉が確かに肉を帯びる。

11月
『たずねびと』
あの時の乞食は、私です。
雑誌に投稿された、戦争の際に自分を救った恩人に対するメッセージ。投稿された文章の形で進むのが面白い。
『薄明』
甲府疎開のスケッチ。

12月
『日の出前』昭和17年10月の『花火』を改題発表

『男女同権』
おっさんが演説をしながら話題が逸れていく、チェーホフみたいなモノローグ。

『親友交歓』
訪ねてきたヤベェ友人に応対する私。

昭和22年【1947】
1月
『同じ星』1月1日
同じ年、同じ誕生日の詩人と飲んだ話。
『新しい形の個人主義』1月1日
新しい主義を肯定せねば。
『織田君の死』1月13日
織田作之助の死へ。
『『猿面冠者』あとがき』1月20日
短篇集のあとがき。『新ハムレット』のクローヂヤスについての言及がある。
『トカトントン』
何かに夢中になりかけるとトンカチの音が聞こえてきて、たちまち冷めてしまう男の、助けてくださいという手紙。虚構。
『メリイクリスマス』
久しぶりに再会した知人女性の娘と、恋の勘違い。変わったもの、変わらないものの重さが染みる短編。

3月
『母』
若い生意気な友人・小川くんの家に泊まった夜の事。妙に艶めいた女中を見て、この家は宿だけではない、などと邪推していた所…夜、隣室から声が聞こえてきて…。

5月
『女神』
友人が突然、お前は兄弟だ、俺の妻から生まれた兄弟だ、と言って訪ねてくる。
私はその妻のもとにとりあえず彼を送り届けようとするが…。

6月
『『姥捨』あとがき』6月10日
過去の生活がひどい集。
『『パンドラの匣』あとがき』6月25日
出版事情に触れるあとがき。

7月
『フォスフォレッスセンス』
夢と現実は続いている。
『朝』
夜這いの危機。危険なのはお前だ。
『『ろまん燈籠』序』7月10日
甘い作品を集めたよ。

10月
『『女神』あとがき』10月5日
わりと軽いタッチの物を集めたよー。

11月
『わが半生を語る(文学の曠野に)』11.01
太宰治が語るその半生。生きづらさが文字の間からこぼれ落ちる。
『小志』11月17日
死んだら良いパンツを履かせてね、妻よ。

12月
『斜陽』


昭和23年【1948】
1月
『犯人』
金が原因で、思うように恋人と過ごせない男が、姉に金を借りに行き、断られ、逆上し、包丁で刺す。
世間から逃げ回った挙げ句、服薬自殺。
姉は死んでいなかった。若干、『罪と罰』感?
『饗応夫人』
どんな無礼を働かれても誇り高く客をもてなす夫人を、その女中の視点から語る女性独白体。
『酒の追憶』
冷や酒がぶ飲み、チャンポンの恐ろしさなど酒の恐ろしさを描く。丸山定夫との飲みエピソードには心暖まる。戦時下の、人の暖かみ。

3月
『美男子と煙草』
先輩文学者にへこまされる太宰。
上野の浮浪者見物に連れていかれる太宰。
妻のマジボケ。
『眉山』
行きつけの飲み屋のトシちゃんという女中を煙たく思いながらも「眉山」と呼んで馬鹿にし、話のタネにしていたが、やがて姿を消した彼女を思う。切ない。

4月
『女類』
私は女を殺しました、という告白から始まる。編集者の私は屋台のおかみと好い仲になるが、担当する作家からその関係をボロクソに言われ、女の愛を試す意図もあって女に別れ話をするのだが…。
『渡り鳥』
えらく軽そうな編集者の男が、色んな人におもねりつつ「マネしてなんぼ」と文学論をぶち、飲み代の借金を鮮やかに人に払わせる。心の声、みたいな書かれ方をしてる地の文が面白い。

5月
『桜桃』
夫婦の話。涙の谷。子供よりも親が大事。
ほとんど必死で、楽しい雰囲気を創る事に努力する。悲しい時に、かえって軽い楽しい物語の創造に努力する。

7月
『黒石の人たち』
黒石に行った時に出会った色んな人たち。思い出。
じいさんに叱られたのが嬉しい。

『豊島與志雄著『高尾ざんげ』解説』
おそらく『高尾ざんげ』新潮文庫への解説か。
教養人、とは。

8月
『家庭の幸福』
ラジオで政治家の演説を聞いて頭に来た、という所から想いを政治家の家庭にはせ、さらに家族を大切にする男を空想し、それゆえに人に無慈悲になってしまう結果他人に哀しみが起こる、という所にたどり着き、
家庭の幸福=諸悪のもと、と結ぶ。鮮やか。








小説の豫言者

折口信夫




私の知つた文學者には、豫言者だちの人と、饒舌家型の人とがあつて、著しい相違を見せてゐる。勿論、太宰君は豫言者型といふよりも、豫言者と言つた方が、もつと適切なことを思はせてゐた。
宗教の上の豫言者が、その表現の思ふ壺にはまるまでは、多く饒舌家に類してゐた。太宰君の作品にもさういふ風があつて、語がしきりに空※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)りしたこともある。だが誰も認めてゐる彼の築いた「異質の文學」は、世間は勿論、彼自身意識してゐないこの次の人生を報告しようとして、もがいてゐたのである。
そんな點では徒らに説明の多い同時代の哲人たちよりも、もつと哲學人らしかつたと言へる。ただ惜しいことは、それをつきとめて、具體的なものを我々に示すことが出來なかつた點である。饒舌の藝術なる文學に慣れた我々は、そんなことを言ふ。だが、繪であり更に音樂であつたなら、太宰君の到達した程度で、凡、十分だと言ふことになつたはずである。





底本:「折口信夫全集 廿七卷」






目次


第一巻                 1955.10.15


晩   年
  葉   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  5
 思 ひ 出 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22
 魚 服 記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥61
 列  車  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥71
 地 球 圖 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥76
 猿 ケ 島 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥86
 雀  こ  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥96
 猿 面 冠 者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥102
 逆  行  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥121
 彼は昔の彼ならず ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥127
 ロ マ ネ ス ク‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥177
 玩  具  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥201
 陰  火  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥208
 めくら草紙 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥228

虚構の彷捏
 道 化 の 華 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 241
 狂 言 の 神 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 294
 虚 構 の 春 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 313


 後   記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 381





 
第二巻                 1955.11.20

 ダス・ゲマイネ  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
 雌について   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 27
 創 生 記  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 46
 喝  采   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  63
 二十世紀旗手  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥ 72
 HUMAN LOST ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  93
 燈  籠    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 119
 満  願    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 127
 姥  拾    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 130
 I can speak  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  150
 富 嶽 百 景  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  153
 黄 金 風 景  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  174
 女 生 徒  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  179
 懶惰の歌留多   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 217
 葉櫻と魔笛   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 236


愛と美について

 秋 風 記   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  247
 新 樹 の 言 葉 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  264
 花  燭   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  285
 愛と美につい て ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 310
 火 の 鳥  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  327


 後   記  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  281








第三巻                 1955.12.20


八 十 八 夜 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3
美 少 女 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  21
畜 犬 談 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  29
おしやれ童子‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  45
皮 膚 と 心   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 53
俗 天 使 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  73
  鴎    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  84
兄 た ち ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  100
春 の 盗 賊 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  110
駆込み訴ヘ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  146
老ハイデルベルヒ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  162
善蔵を思ふ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  174
誰も知らぬ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  193
走れメロス ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  202
古 典 風 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  216
女 の 決 闘 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  233
乞 食 学 生 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  281
短 篇 集 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  331
  ア、 秋 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  332
  女 人 訓 戒‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  335
  座興に非ず‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  340
  デカダン抗議‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  343
  一  燈 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  348
  失 敗 園 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  352
  リ イ ズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  358


後   記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  363






第四巻                 1956.1.20

 盲 人 獨 笑   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
 きりぎりす  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  20
 清 貧 譚  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  35
 東 京 八 景  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  49
 みみづく通信 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  75
 佐  渡   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  84
 服装に就いて ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  100
 千 代 女  ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  116
 令 嬢 ア ユ   ‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  131
 ろまん燈籠   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  140
 新ハムレット   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  189
 風 の 便 り    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  317
  誰      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  359
        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  371

 後  
  記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  381





第五巻                 1956.2.20



 新  郎   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
 十二月八日  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  13
 律子と貞子  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  24
 正義と微笑  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  33
 待  つ  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  191
 水  仙  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  194
 小さいアルバム ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  211
 日 の 出 前 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  221
 帰 去 來 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  242
 故  郷  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  263
 禁 酒 の 心 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  279
 黄村先生言行録‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  284
 花 吹 雪 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  303
 不 審 庵 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  326
 作家の手帖 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  337
 佳  日  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  345


 後   記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  367






第六巻                 1956.3.20


鉄 面 皮    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
右大臣 實 朝   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  19
散    華  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  167
雪の夜の話   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  183
東京だより   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  190

新釈諸國噺   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  195
 貧 の 意 地 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  199
 大    力 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  210
 猿    塚 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  221
 人 魚 の 海 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  229
 破    産 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  243
 裸    川 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  253
 義    理 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  263
 女    賊 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  273
 赤 い 太 鼓  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  282
 粋   人  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  294
 遊 興 戒  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  305
 吉 野 山  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  314
竹   青   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  323


後    記  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  339




竹青

――新曲聊斎志異――

太宰治




 むかし湖南こなんの何とやら郡邑ぐんゆうに、魚容という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、うじ育ち共にいやしくなく、眉目びもく清秀、容姿また閑雅かんがおもむきがあって、書を好むこと色を好むがごとしとは言えないまでも、とにかく幼少の頃より神妙に学に志して、これぞという道にはずれた振舞いも無かった人であるが、どういうわけか、福運には恵まれなかった。早く父母に死別し、親戚しんせきの家を転々して育って、自分の財産というものも、その間に綺麗きれいさっぱり無くなっていて、いまは親戚一同から厄介者やっかいものの扱いを受け、ひとりの酒くらいの伯父おじが、酔余すいよの興にその家の色黒くせこけた無学の下婢かひをこの魚容に押しつけ、結婚せよ、よい縁だ、と傍若無人に勝手にきめて、魚容は大いに迷惑ではあったが、この伯父もまた育ての親のひとりであって、わば海山の大恩人に違いないのであるから、その酔漢の無礼な思いつきに対して怒る事も出来ず、涙をこらえ、うつろな気持で自分より二つ年上のその痩せてひからびた醜い女をめとったのである。女は酒くらいの伯父のめかけであったといううわさもあり、顔も醜いが、心もあまり結構でなかった。魚容の学問を頭から軽蔑して、魚容が「大学の道は至善にとどまるにり」などと口ずさむのを聞いて、ふんと鼻で笑い、「そんな至善なんてものに止るよりは、お金に止って、おいしい御馳走ごちそうに止る工夫でもする事だ」とにくにくしげに言って、「あなた、すみませんが、これをみな洗濯して下さいな。少しは家事の手助けもするものです」と魚容の顔をめがけて女のよごれ物を投げつける。魚容はそのよごれ物をかかえて裏の河原におもむき、「馬いななきて白日暮れ、剣鳴て秋気来る」と小声で吟じ、さて、何の面白い事もなく、わが故土にいながらも天涯の孤客こかくの如く、心はびょうとしてむなしく河上を徘徊はいかいするという間の抜けた有様であった。
「いつまでもこのようなみじめな暮しを続けていては、わが立派な祖先に対しても申しわけが無い。乃公おれもそろそろ三十、而立じりつの秋だ。よし、ここは、一奮発して、大いなる声名を得なければならぬ」と決意して、まず女房を一つなぐって家を飛び出し、満々たる自信をもっ郷試きょうしに応じたが、如何いかにせん永い貧乏暮しのために腹中に力無く、しどろもどろの答案しか書けなかったので、見事に落第。とぼとぼと、また故郷のあばら屋に帰る途中の、悲しさは比類が無い。おまけに腹がへって、どうにも足がすすまなくなって、洞庭湖畔どうていこはん呉王廟ごおうびょうの廊下にい上って、ごろりと仰向あおむけに寝ころび、「あああ、この世とは、ただ人を無意味に苦しめるだけのところだ。乃公の如きは幼少の頃より、もっぱらひとりを慎んで古聖賢の道をきわめ、学んでしこうして時にこれを習っても、遠方から福音の訪れ来る気配はさらに無く、毎日毎日、忍び難い侮辱ばかり受けて、大勇猛心を起して郷試に応じても無慙むざんの失敗をするし、この世には鉄面皮の悪人ばかり栄えて、乃公の如き気の弱い貧書生は永遠の敗者として嘲笑せられるだけのものか。女房をぶん殴って颯爽さっそうと家を出たところまではよかったが、試験に落第して帰ったのでは、どんなに強く女房に罵倒ばとうせられるかわからない。ああ、いっそ死にたい」と極度の疲労のため精神朦朧もうろうとなり、君子の道を学んだ者にも似合わず、しきりに世をのろい、わが身の不幸を嘆いて、薄目をあいて空飛ぶからすの大群を見上げ、「からすには、貧富が無くて、仕合せだなあ。」と小声で言って、眼を閉じた。
 この湖畔の呉王廟は、三国時代の呉の将軍甘寧かんねいを呉王と尊称し、之を水路の守護神としてあがめまつっているもので、霊顕すこぶるあらたかの由、湖上往来の舟がこの廟前を過ぐる時には、舟子かこども必ず礼拝し、廟の傍の林には数百の烏が棲息せいそくしていて、舟を見つけると一斉に飛び立ち、唖々ああとやかましくさわいで舟の帆柱に戯れ舞い、舟子どもは之を王の使いの烏として敬愛し、羊の肉片など投げてやるとさっと飛んで来て口にくわえ、千に一つも受け損ずる事は無い。落第書生の魚容は、この使い烏の群が、嬉々ききとして大空を飛び廻っている様をうらやましがり、烏は仕合せだなあ、と哀れな細い声でつぶやいて眠るともなく、うとうとしたが、その時、「もし、もし。」と黒衣の男にゆり起されたのである。
 魚容は未だ夢心地で、
「ああ、すみません。しからないで下さい。あやしい者ではありません。もう少しここに寝かせて置いて下さい。どうか、叱らないで下さい。」と小さい時からただ人に叱られて育って来たので、人を見ると自分を叱るのではないかとおびえる卑屈な癖が身についていて、この時も、譫言うわごとのように「すみません」を連発しながら寝返りを打って、また眼をつぶる。
「叱るのではない。」とその黒衣の男は、不思議なしわがれたる声で言って、「呉王さまのお言いつけだ。そんなに人の世がいやになって、からすの生涯がうらやましかったら、ちょうどよい。いま黒衣隊が一卒欠けているから、それの補充にお前を採用してあげるというお言葉だ。早くこの黒衣を着なさい。」ふわりと薄い黒衣を、寝ている魚容にかぶせた。
 たちまち、魚容はおすの烏。眼をぱちぱちさせて起き上り、ちょんと廊下の欄干らんかんにとまって、くちばしで羽をかいつくろい、翼をひろげて危げに飛び立ち、いましも斜陽を一ぱい帆に浴びて湖畔を通る舟の上に、むらがり噪いで肉片の饗応きょうおうにあずかっている数百の神烏しんうにまじって、右往左往し、舟子の投げ上げる肉片を上手じょうずに嘴に受けて、すぐにもう、生れてはじめてと思われるほどの満腹感を覚え、岸の林に引上げて来て、こずえにとまり、林に嘴をこすって、水満々の洞庭の湖面の夕日に映えて黄金色に輝いている様を見渡し、「秋風ひるがえす黄金浪花千片か」などと所謂いわゆる君子蕩々然とうとうぜんとうそぶいていると、
「あなた、」とえんなる女性の声がして、「お気に召しまして?」
 見ると、自分と同じ枝にめすの烏が一羽とまっている。
「おそれいります。」魚容は一揖いちゆうして、「何せどうも、身は軽くして泥滓でいしを離れたのですからなあ。叱らないで下さいよ。」とつい口癖になっているので、余計な一言を附加えた。
「存じて居ります。」と雌の烏は落ちついて、「ずいぶんいままで、御苦労をなさいましたそうですからね。お察し申しますわ。でも、もう、これからは大丈夫。あたしがついていますわ。」
「失礼ですが、あなたは、どなたです。」
「あら、あたしは、ただ、あなたのお傍に。どんな用でも言いつけて下さいまし。あたしは、何でも致します。そう思っていらして下さい。おいや?」
「いやじゃないが、」魚容は狼狽ろうばいして、「乃公おれにはちゃんと女房があります。浮気は君子の慎しむところです。あなたは、乃公を邪道に誘惑しようとしている。」と無理に分別顔を装うて言った。
「ひどいわ。あたしが軽はずみの好色の念からあなたに言い寄ったとでもお思いなの? ひどいわ。これはみな呉王さまの情深いお取りはからいですわ。あなたをお慰め申すように、あたしは呉王さまから言いつかったのよ。あなたはもう、人間でないのですから、人間界の奥さんの事なんか忘れてしまってもいいのよ。あなたの奥さんはずいぶんお優しいお方かも知れないけれど、あたしだってそれに負けずに、一生懸命あなたのお世話をしますわ。烏のみさおは、人間の操よりも、もっと正しいという事をお見せしてあげますから、おいやでしょうけれど、これから、あたしをお傍に置いて下さいな。あたしの名前は、竹青というの。」
 魚容は情に感じて、
「ありがとう。乃公も実は人間界でさんざんの目にって来ているので、どうも疑い深くなって、あなたの御親切も素直に受取る事が出来なかったのです。ごめんなさい。」
「あら、そんなに改まった言い方をしては、おかしいわ。きょうから、あたしはあなたの召使いじゃないの。それでは旦那だんな様、ちょっと食後の御散歩は、いかがでしょう。」
「うむ、」と魚容もいまは鷹揚おうようにうなずき、「案内たのむ。」
「それでは、ついていらっしゃい。」とぱっと飛び立つ。
 秋風嫋々じょうじょうと翼をで、洞庭の烟波えんぱ眼下にあり、はるかに望めば岳陽のいらか灼爛しゃくらんと落日に燃え、さらに眼を転ずれば、君山、玉鏡に可憐かれん一点の翠黛すいたいを描いて湘君しょうくんおもかげをしのばしめ、黒衣の新夫婦は唖々ああと鳴きかわして先になり後になりうれえず惑わずおそれず心のままに飛翔ひしょうして、疲れると帰帆の檣上しょうじょうにならんで止って翼を休め、顔を見合わせて微笑ほほえみ、やがて日が暮れると洞庭秋月皎々こうこうたるを賞しながら飄然ひょうぜんねぐらに帰り、互に羽をすり寄せて眠り、朝になると二羽そろって洞庭の湖水でぱちゃぱちゃとからだを洗い口をすすぎ、岸に近づく舟をめがけて飛び立てば、舟子どもから朝食の奉納があり、新婦の竹青はいしく恥じらいながら影の形に添う如くいつも傍にあって何かと優しく世話を焼き、落第書生の魚容も、その半生の不幸をここで一ぺんに吹き飛ばしたような思いであった。
 その日の午後、いまは全く呉王廟の神烏の一羽になりすまして、往来の舟の帆檣にたわむれ、折から兵士を満載した大舟が通り、仲間の烏どもは、あれは危いと逃げて、竹青もけたたましく鳴いて警告したのだけれども、魚容の神烏は何せ自由に飛翔できるのがうれしくてたまらず、得意げにその兵士の舟の上を旋回せんかいしていたら、ひとりのいたずらっの兵士が、ひょうと矢を射てあやまたず魚容の胸をつらぬき、石のように落下する間一髪、竹青、稲妻いなずまの如く迅速に飛んで来て魚容の翼をくわえ、さっと引上げて、呉王廟の廊下に、瀕死ひんしの魚容を寝かせ、涙を流しながら甲斐甲斐かいがいしく介抱かいほうした。けれども、かなりの重傷で、とても助からぬと見て竹青は、一声悲しく高く鳴いて数百羽の仲間の烏を集め、羽ばたきの音も物凄ものすごく一斉に飛び立ってかの舟を襲い、羽で湖面をあおって大浪を起したちまち舟を顛覆てんぷくさせて見事に報讐ほうしゅうし、大烏群は全湖面を震撼しんかんさせるほどの騒然たる凱歌がいかを挙げた。竹青はいそいで魚容のもとに引返し、その嘴を魚容の頬にすり寄せて、
「聞えますか。あの、仲間の凱歌が聞えますか。」と哀慟あいどうして言う。
 魚容は傷の苦しさに、もはや息も絶える思いで、見えぬ眼をわずかに開いて、
「竹青。」と小声で呼んだ、と思ったら、ふと眼がめて、気がつくと自分は人間の、しかも昔のままの貧書生の姿で呉王廟の廊下に寝ている。斜陽あかあかと目前のかえでの林を照らして、そこには数百の烏が無心に唖々と鳴いて遊んでいる。
「気がつきましたか。」と農夫の身なりをしたじじいが傍に立っていて笑いながら尋ねる。
「あなたは、どなたです。」
「わしはこの辺の百姓だが、きのうの夕方ここを通ったら、お前さんが死んだように深く眠っていて、眠りながら時々微笑んだりして、わしは、ずいぶん大声を挙げてお前さんを呼んでも一向に眼を醒まさない。肩をつかんでゆすぶっても、ぐたりとしている。家へ帰ってからも気になるので、たびたびお前さんの様子を見に来て、眼の醒めるのを待っていたのだ。見れば、顔色もよくないが、どこか病気か。」
「いいえ、病気ではございません。」不思議におなかも今はちっともいていない。「すみませんでした。」とれいのあやまり癖が出て、坐り直して農夫に叮嚀ていねいにお辞儀をして、「お恥かしい話ですが、」と前置きをしてこの廟の廊下に行倒れるにいたった事情を正直に打明け、重ねて、「すみませんでした。」とお詫びを言った。
 農夫はあわれに思った様子で、ふところから財布さいふを取出しいくらかの金を与え、
「人間万事塞翁さいおうの馬。元気を出して、再挙をはかるさ。人生七十年、いろいろさまざまの事がある。人情は飜覆ほんぷくして洞庭湖の波瀾はらんに似たり。」と洒落しゃれた事を言って立ち去る。
 魚容はまだ夢の続きを見ているような気持で、呆然ぼうぜんと立って農夫を見送り、それから振りかえって楓の梢にむらがる烏を見上げ、
「竹青!」と叫んだ。一群の烏が驚いて飛び立ち、ひとしきりやかましく騒いで魚容の頭の上を飛びまわり、それからまっすぐに湖の方へいそいで行って、それっきり、何の変った事も無い。
 やっぱり、夢だったかなあ、と魚容は悲しげな顔をして首を振り、一つ大きい溜息ためいきをついて、力無く故土に向けて発足する。
 故郷の人たちは、魚容が帰って来ても、格別うれしそうな顔もせず、冷酷の女房は、さっそく伯父の家の庭石の運搬を魚容に命じ、魚容は汗だくになって河原から大いなる岩石をいくつも伯父の庭先まで押したりいたりかついだりして運び、「貧してえん無きは難し」とつくづく嘆じ、「あしたに竹青の声を聞かばゆうべに死するも可なり矣」と何につけても洞庭一日の幸福な生活が燃えるほどはげしく懐慕せられるのである。
 伯夷叔斉はくいしゅくせいは旧悪をおもわず、うらみこれを用いてまれなり。わが魚容君もまた、君子の道に志している高邁こうまいの書生であるから、不人情の親戚をも努めて憎まず、無学の老妻にも逆わず、ひたすら古書に親しみ、閑雅の清趣を養っていたが、それでも、さすがに身辺の者から受ける蔑視べっしには堪えかねる事があって、それから三年目の春、またもや女房をぶん殴って、いまに見ろ、と青雲の志をいだいて家出して試験に応じ、やっぱり見事に落第した。よっぽど出来ない人だったと見える。帰途、また思い出の洞庭湖畔、呉王廟に立ち寄って、見るものみな懐しく、悲しみもまた千倍して、おいおい声を放って廟前で泣き、それから懐中のわずかな金を全部はたいて羊肉を買い、それを廟前にばらいて神烏に供して樹上から降りて肉をついばむ群烏を眺めて、この中に竹青もいるのだろうなあ、と思っても、皆一様に真黒で、それこそ雌雄をさえ見わける事が出来ず、
「竹青はどれですか。」と尋ねても振りかえる烏は一羽も無く、みんなただ無心に肉を拾ってたべている。魚容はそれでも諦められず、
「この中に、竹青がいたら一番あとまで残っておいで。」と、千万の思慕の情をこめて言ってみた。そろそろ肉が無くなって、群烏は二羽立ち、五羽立ち、むらむらぱっと大部分飛び立ち、あとには三羽、まだ肉を捜して居残り、魚容はそれを見て胸をとどろかせ手に汗を握ったが、肉がもう全く無いと見てぱっと未練みれんげも無く、その三羽も飛び立つ。魚容は気抜けの余りくらくら眩暈めまいして、それでもなお、この場所から立ち去る事が出来ず、廟の廊下に腰をおろして、春霞はるがすみに煙る湖面を眺めてただやたらに溜息をつき、「ええ、二度も続けて落第して、何の面目があっておめおめ故郷に帰られよう。生きて甲斐かいない身の上だ、むかし春秋戦国の世にかの屈原くつげんも衆人皆酔い、我ひとめたり、と叫んでこの湖に身を投げて死んだとかいう話を聞いている、乃公おれもこの思い出なつかしい洞庭に身を投げて死ねば、あるいは竹青がどこかで見ていて涙を流してくれるかも知れない、乃公を本当に愛してくれたのは、あの竹青だけだ、あとは皆、おそろしい我慾の鬼ばかりだった、人間万事塞翁の馬だと三年前にあのおじいさんが言ってはげましてくれたけれども、あれは嘘だ、不仕合せに生れついた者は、いつまでっても不仕合せのどん底であがいているばかりだ、これすなわち天命を知るという事か、あはは、死のう、竹青が泣いてくれたら、それでよい、他には何も望みは無い」と、古聖賢の道をきわめた筈の魚容も失意の憂愁に堪えかね、今夜はこの湖で死ぬる覚悟。やがて夜になると、輪郭りんかくにじんだ満月が中空に浮び、洞庭湖はただ白くぼうとして空と水の境が無く、岸の平沙へいさは昼のように明るく柳の枝は湖水のもやを含んで重く垂れ、遠くに見える桃畑の万朶ばんだの花はあられに似て、微風が時折、天地の溜息の如く通過し、いかにも静かな春の良夜、これがこの世の見おさめと思えば涙もそでにあまり、どこからともなく夜猿やえんの悲しそうな鳴声が聞えて来て、愁思まさに絶頂に達した時、背後にはたはたと翼の音がして、
「別来、つつが無きや。」
 振り向いて見ると、月光を浴びて明眸皓歯めいぼうこうし二十はたちばかりの麗人がにっこり笑っている。
「どなたです、すみません。」とにかく、あやまった。
「いやよ、」と軽く魚容の肩を打ち、「竹青をお忘れになったの?」
「竹青!」
 魚容は仰天して立ち上り、それから少し躊躇ちゅうちょしたが、ええ、ままよ、といきなり美女の細い肩を掻き抱いた。
「離して。いきが、とまるわよ。」と竹青は笑いながら言って巧みに魚容の腕からのがれ、「あたしは、どこへも行かないわよ。もう、一生あなたのお傍に。」
「たのむ! そうしておくれ。お前がいないので、乃公は今夜この湖に身を投げて死んでしまうつもりだった。お前は、いったい、どこにいたのだ。」
「あたしは遠い漢陽に。あなたと別れてからここを立ち退き、いまは漢水の神烏になっているのです。さっき、この呉王廟にいる昔のお友達があなたのお見えになっている事を知らせにいらして下さったので、あたしは、漢陽からいそいで飛んで来たのです。あなたの好きな竹青が、ちゃんとこうして来たのですから、もう、死ぬなんておそろしい事をお考えになっては、いやよ。ちょっと、あなたも痩せたわねえ。」
「痩せる筈さ。二度も続けて落第しちゃったんだ。故郷に帰れば、またどんな目に遭うかわからない。つくづくこの世が、いやになった。」
「あなたは、ご自分の故郷にだけ人生があると思い込んでいらっしゃるから、そんなに苦しくおなりになるのよ。人間いたるところに青山せいざんがあるとか書生さんたちがよく歌っているじゃありませんか。いちど、あたしと一緒に漢陽の家へいらっしゃい。生きているのも、いい事だと、きっとお思いになりますから。」
「漢陽は、遠いなあ。」いずれが誘うともなく二人ならんでびょうの廊下から出て月下の湖畔を逍遥しょうようしながら、「父母いませば遠く遊ばず、遊ぶに必ず方有り、というからねえ。」魚容は、もっともらしい顔をして、れいの如くその学徳の片鱗へんりんを示した。
「何をおっしゃるの。あなたには、お父さんもお母さんも無いくせに。」
「なんだ、知っているのか。しかし、故郷には父母同様の親戚の者たちが多勢いる。乃公は何とかして、あの人たちに、乃公の立派に出世した姿をいちど見せてやりたい。あの人たちは昔から乃公をまるで阿呆か何かみたいに思っているのだ。そうだ、漢陽へ行くよりは、これからお前と一緒に故郷に帰り、お前のその綺麗きれいな顔をみんなに見せて、おどろかしてやりたい。ね、そうしようよ。乃公は、故郷の親戚の者たちの前で、いちど、思いきり、大いに威張ってみたいのだ。故郷の者たちに尊敬されるという事は、人間の最高の幸福で、また終極の勝利だ。」
「どうしてそんなに故郷の人たちの思惑ばかり気にするのでしょう。むやみに故郷の人たちの尊敬を得たくて努めている人を、郷原きょうげんというんじゃなかったかしら。郷原は徳の賊なりと論語に書いてあったわね。」
 魚容は、ぎゃふんとまいって、やぶれかぶれになり、
「よし、行こう。漢陽に行こう。連れて行ってくれ。逝者ゆくものかくの如きかな、昼夜をてず。」てれ隠しに、はなはだ唐突な詩句をしょうして、あははは、と自らをあざけった。
「まいりますか。」竹青はいそいそして、「ああ、うれしい。漢陽の家では、あなたをお迎えしようとして、ちゃんと仕度がしてあります。ちょっと、眼をつぶって。」
 魚容は言われるままに眼を軽くつぶると、はたはたと翼の音がして、それから何か自分の肩に薄い衣のようなものがかかったと思うと、すっとからだが軽くなり、眼をひらいたら、すでに二人は雌雄の烏、月光を受けて漆黒しっこくの翼は美しく輝き、ちょんちょん平沙を歩いて、唖々と二羽、声をそろえて叫んで、ぱっと飛び立つ。
 月下白光三千里の長江ちょうこう、洋々と東北方に流れて、魚容は酔えるが如く、流れにしたがっておよそ二ときばかり飛翔して、ようよう夜も明けはなれてはるか前方に水の都、漢陽の家々のいらか朝靄あさもやの底に静かに沈んで眠っているのが見えて来た。近づくにつれて、晴川せいせん歴々たり漢陽の樹、芳草萋々せいせいたり鸚鵡おうむの洲、対岸には黄鶴楼のそびえるあり、長江をへだてて晴川閣と何事か昔を語り合い、帆影点々といそがしげに江上を往来し、更にすすめば大別山だいべつざんの高峰眼下にあり、ふもとには水漫々の月湖ひろがり、更に北方には漢水蜿蜒えんえんと天際に流れ、東洋のヴェニス一ぼうの中に収り、「わが郷関きょうかんいずれの処ぞこれなる、煙波江上、人をして愁えしむ」と魚容は、うっとり呟いた時、竹青は振りかえって、
「さあ、もう家へまいりました。」と漢水の小さな孤洲の上で悠然と輪を描きながら言った。魚容も真似して大きく輪を描いて飛びながら、脚下の孤洲を見ると、緑楊りょくよう水にひたり若草けむるが如き一隅にお人形の住家みたいな可憐な美しい楼舎があって、いましもその家の中から召使いらしき者五、六人、走り出て空を仰ぎ、手を振って魚容たちを歓迎している様が豆人形のように小さく見えた。竹青は眼で魚容に合図して、翼をすぼめ、一直線にその家めがけて降りて行き、魚容もおくれじと後を追い、二羽、その洲の青草原に降り立ったとたんに、二人は貴公子と麗人、にっこり笑い合って寄り添い、迎えの者に囲まれながらその美しい楼舎にはいった。
 竹青に手をひかれて奥の部屋へ行くと、その部屋は暗く、卓上の銀燭ぎんしょく青烟せいえんき、垂幕すいばくの金糸銀糸は鈍く光って、寝台には赤い小さな机が置かれ、その上に美酒佳肴かこうがならべられて、数刻前から客を待ち顔である。
「まだ、夜が明けぬのか。」魚容はの抜けた質問を発した。
「あら、いやだわ。」と竹青は少し顔をあからめて、「暗いほうが、恥かしくなくていいと思って。」と小声で言った。
「君子の道は闇然あんぜんたり、か。」魚容は苦笑して、つまらぬ洒落しゃれを言い、「しかし、いんむかいて怪を行う、という言葉も古書にある。よろしく窓を開くべしだ。漢陽の春の景色を満喫しよう。」
 魚容は、垂幕を排して部屋の窓を押しひらいた。朝の黄金の光がっと射し込み、庭園の桃花は、繚乱りょうらんたり、うぐいす百囀ひゃくてん耳朶じだをくすぐり、かなたには漢水の小波さざなみが朝日を受けて躍っている。
「ああ、いい景色だ。くにの女房にも、いちど見せたいなあ。」魚容は思わずそう言ってしまって、愕然がくぜんとした。乃公は未だあの醜い女房を愛しているのか、とわが胸に尋ねた。そうして、急になぜだか、泣きたくなった。
「やっぱり、奥さんの事は、お忘れでないと見える。」竹青は傍で、しみじみ言い、かすかな溜息をもらした。
「いや、そんな事は無い。あれは乃公の学問を一向に敬重せず、よごれ物を洗濯させたり、庭石を運ばせたりしやがって、その上あれは、伯父の妾であったという評判だ。一つとして、いいところが無いのだ。」
「その、一つとしていいところの無いのが、あなたにとって尊くなつかしく思われているのじゃないの? あなたの御心底は、きっと、そうなのよ。惻隠そくいんの心は、どんな人にもあるというじゃありませんか。奥さんを憎まずうらまず呪わず、一生涯、労苦をわかち合って共に暮して行くのが、やっぱり、あなたの本心の理想ではなかったのかしら。あなたは、すぐにお帰りなさい。」竹青は、一変して厳粛な顔つきになり、きっぱりと言い放つ。
 魚容は大いに狼狽ろうばいして、
「それは、ひどい。あんなに乃公を誘惑して、いまさら帰れとはひどい。郷原だの何だのと言って乃公を攻撃して故郷を捨てさせたのは、お前じゃないか。まるでお前は乃公を、なぶりものにしているようなものだ。」と抗弁した。
「あたしは神女です。」と竹青は、きらきら光る漢水の流れをまっすぐに見つめたまま、更にきびしい口調で言った。「あなたは、郷試には落第いたしましたが、神の試験には及第しました。あなたが本当に烏の身の上を羨望せんぼうしているのかどうか、よく調べてみるように、あたしは呉王廟の神様から内々に言いつけられていたのです。禽獣きんじゅうに化して真の幸福を感ずるような人間は、神に最も倦厭けんえんせられます。いちどは、こらしめのため、あなたを弓矢で傷つけて、人間界にかえしてあげましたが、あなたは再び烏の世界に帰る事を乞いました。神は、こんどはあなたに遠い旅をさせて、さまざまの楽しみを与え、あなたがその快楽に酔いれて全く人間の世界を忘却するかどうか、試みたのです。忘却したら、あなたに与えられる刑罰は、恐しすぎて口に出して言う事さえ出来ないほどのものです。お帰りなさい。あなたは、神の試験には見事に及第なさいました。人間は一生、人間の愛憎の中で苦しまなければならぬものです。のがれ出る事は出来ません。忍んで、努力を積むだけです。学問も結構ですが、やたらに脱俗をてらうのは卑怯です。もっと、むきになって、この俗世間を愛惜し、愁殺し、一生そこに没頭してみて下さい。神は、そのような人間の姿を一ばん愛しています。ただいま召使いの者たちに、舟の仕度をさせて居ります。あれに乗って、故郷へまっすぐにお帰りなさい。さようなら。」と言い終ると、竹青の姿はもとより、楼舎も庭園も忽然こつぜんと消えて、魚容は川の中の孤洲に呆然と独り立っている。
 帆もかじも無い丸木舟が一そうするすると岸に近寄り、魚容は吸われるようにそれに乗ると、その舟は、飄然ひょうぜん自行じこうして漢水を下り、長江をさかのぼり、洞庭を横切り、魚容の故郷ちかくの漁村の岸畔に突き当り、魚容が上陸すると無人の小舟は、またするするとおのずから引返して行って洞庭の烟波えんぱの間に没し去った。
 すこぶるしょげて、おっかなびっくり、わが家の裏口から薄暗い内部を覗くと、
「あら、おかえり。」と艶然えんぜんと笑って出迎えたのは、ああ、驚くべし、竹青ではないか。
「やあ! 竹青!」
「何をおっしゃるの。あなたは、まあ、どこへいらしていたの? あたしはあなたの留守に大病して、ひどい熱を出して、誰もあたしを看病してくれる人がなくて、しみじみあなたが恋いしくなって、あたしが今まであなたを馬鹿にしていたのは本当に間違った事だったと後悔して、あなたのお帰りを、どんなにお待ちしていたかわかりません。熱がなかなかさがらなくて、そのうちに全身が紫色にれて来て、これもあなたのようないいお方を粗末そまつにした罰で、当然の報いだとあきらめて、もう死ぬのを静かに待っていたら、腫れた皮膚が破れて青い水がどっさり出て、すっとからだが軽くなり、けさ鏡を覗いてみたら、あたしの顔は、すっかり変って、こんな綺麗な顔になっているので嬉しくて、病気も何も忘れてしまい、寝床から飛び出て、さっそく家の中のお掃除などはじめていたら、あなたのお帰りでしょう? あたしは、うれしいわ。ゆるしてね。あたしは顔ばかりでなく、からだ全体変ったのよ。それから、心も変ったのよ。あたしは悪かったわ。でも、過去のあたしの悪事は、あの青い水と一緒にみんな流れ出てしまったのですから、あなたも昔の事は忘れて、あたしをゆるして、あなたのお傍に一生置いて下さいな。」
 一年後に、玉のような美しい男子が生れた。魚容はその子に「漢産」という名をつけた。その名の由来は最愛の女房にも明さなかった。神烏の思い出と共に、それは魚容の胸中の尊い秘密として一生、誰にも語らず、また、れいの御自慢の「君子の道」も以後はいっさい口にせず、ただ黙々と相変らずの貧しいその日暮しを続け、親戚の者たちにはやはり一向に敬せられなかったが、格別それを気にするふうも無く、極めて平凡な一田夫として俗塵ぞくじんに埋もれた。
自註。これは、創作である。支那のひとたちに読んでもらいたくて書いた。漢訳せられる筈である。





第七巻                 1956.4.20

津  軽    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
惜  別  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  157
お伽草紙  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  271
 瘤 取 り‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  274
 浦島さん ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  290
 カチカチ山‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  325
 舌 切 雀‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  349


後   記 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  373





第八巻                 1956.5.20


パンドラの匣   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
津軽通信    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  135
   庭    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  136
   やんぬる哉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  142
   親といふ二字‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  149
   嘘    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  155
   雀    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  167

貨   幣    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  179
薄   明    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  187
苦悩の年鑑   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  201
十 五 年 間   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  213+
末帰還の友に  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  237
チ ャ ン ス ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  253
ねづねびと   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  266
親友交歓    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  277
男女同権    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  299
トカトントン  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  320
冬の花火    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  339
春の枯葉    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  373


後   記   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  415








第九巻                 1956.6.20

メリイクリスマス   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
ヴィヨンの妻    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  14
母         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  44
父         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  57
女  紳      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  70
フォスフオレッセンス‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  82
朝         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  90
斜  陽      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  97
お さ ん     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 243
犯  人      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  260
饗應夫人      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  274
酒の追憶      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  284
美男子と煙草    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  296
眉  山      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  304
女  類      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  317
渡 り 鳥     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  329
家庭の幸福     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  341
楼  桃      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  354
人間失格      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  363
グッド・バイ    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  471

後    記    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  499





第十巻                 1956.7.20


昭和十年
 もの思ふ葦(その一)     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  4
  は し が き        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  4
  虚 栄 の 市         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  5
  敗 北 の 歌         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  7
  或る実験報告        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  9
  老  年            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  9
  難  解           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  11
  塵中の人          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  12
  おのれの作品のよしあしをひとにたづねることに就いて     ‥‥13
  書 簡 集         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  13
  兵  法            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  15
  In a word           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  15
  病躯の文章とそのハンデキャップに就いて  ‥‥‥‥‥‥‥‥  16
  「衰運」におくる言葉   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  17
  ダス・ゲマイネに就いて ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  17
  金銭について‥       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  19
  放心について       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  19
  世渡の秘訣        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  20
  緑  雨           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  20
  ふたたび書簡のこと      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  20
  わが儘といふ事      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  21
  百花繚乱主義         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  22
  ソロモン王と賤民     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  23
  文  章           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  23
  感謝の文章         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  23
  審  判            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  24
  無間地獄          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  24
  餘  談           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  25
  川端康成へ         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  26



昭和十一年
 もの思ふ葦(その二)    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  30
  葦の自戒         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  30
  感想について       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  30
  すらだにも         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  31
  慈  限           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  31
  重大のこと         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  32
  敵              ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  32
  健  康           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  33
  K  君              ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  33
  ポ オ ズ          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  34
  
はがき          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  34
  いつはりなき申告     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  34
  乱麻を焼き切る      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  35
  最後のスタンドプレイ   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  35
  冷酷といふことについて  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  36
  わがかなしみ       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  37
  文章について       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  37
  ふと思ふ          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  37
  Y  子             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 37
  言葉の奇妙        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  38
  まんざい          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  38
  わが神話          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  38
  最も日常茶飯的なるもの  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  39
  蟹について          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  39
  わがダンディスム     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  39
  「晩年」に就いて      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  40
   気がかりといふことに就いて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  41
   宿  題           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  41
 人物に就いて         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  44
 碧眼托鉢            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  47
  ボオドレエルに就いて   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  47
  ブルジョア塾術に於ける運命‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  48
  定  理            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  48
  わが終生の所願      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  48
  わ が 友          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  48
  憂きわれをさびしがらせよ閑古鳥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  49
  フィリップの骨格に就いて  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  49
  或るひとりの男の精進に就いて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  51
  生きて行くカ           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  51
  わが唯一のをののき     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  52
  マンネリズム          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  52
  作家は小説を書かなけれはいけない‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  53
  挨  拶             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  54
  立派といふことに就いて   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  54
  Confiteor            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  55
  頽廃の兒、自然の兒     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  57
 古典龍頭蛇尾          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  58
 悶 悶 日 記            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  62
 走ラヌ名馬            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  66



昭和十二年
 音に就いて           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  70
 檀君の近業に就いて     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  73
 思案の敗北           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  74
 創作餘談             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  79



昭和十三年
 「晩年」に就いて         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 84
一日の努苦           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 86
 多頭蛇哲畢          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 90
 答案落第           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 93
 緒方氏を殺した者        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 97
一歩前進二歩退却        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 99
 富士に就いて         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 101
 校長三代           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 103
 九月十月十一月       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  106




昭和十四年
 審  査          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  114
 當選の日          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  116
 正直ノオト         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  122
 「人間キリスト記」その他     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  125
 困惑の弁          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  127
 市井喧争          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  132
 酒ぎらひ          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  135


昭和十五年
 このごろ          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  144
 心の王者          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  150
 鬱 屈 禍          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  153
 知らない人         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  156
 諸君の位置         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  161
 三月三十日         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  164
 無 趣 味         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  167
 義   務         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  168
 作 家 の 像         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  171
 大恩は語らず        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  176
 自信の無さ         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  179
 六月十九日         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  181
 國 技 館         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  183
 貪 婪 禍         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  185
 自作を語る         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  188
 砂 子 屋         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  191
 文 盲 自 嘲          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  193
 パウロの混乱         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  195
 かすかな聲         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  198


昭和十六年
 男女川と羽左衛門      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  202
 弱者の糧          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  204
 五所川原          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  207
 青  森          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  209
 「晩年」と「女生徒」    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  211
 容  貌          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  213
 世 界 的         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  215
 私  信          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  217


昭和十七年
 或る忠告          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  220
 食  通          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  222
 一間一答          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  223
 無  題          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  225
 炎天汗談          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  226
 小  照          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  228
 天  狗          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  230

昭和十八年
 赤  心(辻小詮)     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  238
 わが愛好する言葉      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  239
 金銭の詣          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  240


昭和十九年
 横  綱          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  246
 革 財 布         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  247
 藝術ぎらひ         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  251
 郷  愁           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  255
 純  眞          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  257
 一つの約束          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  258


昭和二十一年
 返  事          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  262
 政治家と家庭        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  266
 津軽地方とチエホフ      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  267
 海          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  271
 同 じ 星        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  273



昭和二十二年
 織田君の死         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  276
 新しい形の個人主義     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  278
 小  志          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  279
 わが年生を語る       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  280


昭和二十三年
 か く め い         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  288
 小説の面白さ        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  289
 徒党について        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  291
 黒石の人たち        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  294
 如 是 我 聞         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  296


序文・後記・解説
 田中英光著『オリムボスの果實』序   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  328
 宮崎譲詩集『竹槍隊』序         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  330
 櫻岡孝治著『馬来の日記』序      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  332
 村上芳雄著『洋燈』序         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  334
 豊島輿志雄著『高尾ざんげ』解説    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  336
 『井伏鱒二選集』後記         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  339
 宇留野元一作「樹海」序        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  355

 「地球圖」自序            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  356
 『愛と美について』自序       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  357
 『思ひ出』自序            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  358
 『東京八景』あとがき        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  361
 『風の便り』あとがき        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  362
   アルト
 『老ハイデルベルヒ』自序       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  363
 『正義と微笑』あとがき        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  365
 『女性』あとがき            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  366
 『富岳百景』自序           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  367
 『惜別』あとがき            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  368
 『パンドラの匣』作者の言葉     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  370
 「パンドラの匣」あとがき       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  371
 『玩具』あとがき            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  372
 『猿面冠者』あとがき        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  374
 『姥捨』あとがき            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  375
 『女神』あとがき            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  376
 「グッド・バイ」作者の言葉           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  377







第十一巻                 1956.8.20

(書簡集)


昭 和 七 年          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  3
昭 和 八 年         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  17
昭 和 九 年         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  29
昭 和 十 年         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  43
昭和 十 一 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  77
昭和 十 二 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 127
昭和 十 三 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 137
昭和 十 四 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 169
昭和 十 五 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 213
昭和 十 六 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 239
昭和 十 七 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 271
昭和 十 八 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 293
昭和 十 九 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 309
昭和 二 十 年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 325
昭和二十一年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 355
昭和二十二年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 423
昭和二十三年        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 443

後   記             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 451
索   引            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 453



第十二巻                 1956.9.20


初期作品
 温  泉      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5
 最後の太閤    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6
 虚  勢      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
 角  力      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 24
 犠 牲       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 28
 負けぎらひト敗北ト     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 33
 地  圖      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44
 私のシゴト     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 52
 侏 儒 楽     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 57
 針医の圭樹    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 65
  瘤          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 71
 将  軍      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 76
 傴  僂      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 81
 哄笑に至る    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 84
 モナコ小景    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 92
 怪  談      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥100
 名  君      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥111
 無間奈落     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥120
 股をくゞる     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥169
 彼等とそのいとしき母     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥182
 此の夫婦     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥197
 虎徹宵話     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥219
 花  火      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥230
 地主一代     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥237
 学 生 群      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥277

補 遺

 洋之助の気焔    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥351
 飾らぬ生水晶    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥368
 「二十世紀旗手」断片    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥371
 「惜別」の意圖     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥377
 「大鴉」断片     ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥380


  年   譜      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥383

  後   記      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥409




第十三巻                 1956.6.20

   (太宰治研究)


   Ⅰ


臼井吉見     太宰 治 論          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5
平野 謙     太宰 治 論          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 20
奥野健男     太宰 治 論          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 29
亀井勝一郎    大庭葉蔵          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 43
佐古純一郎    『人間失格』論      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 52
柳田知常     『人間失格』について    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥63
神西 清     斜陽の問題          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥76
今 官一     遠ざかる唄聲のChronicle   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥87
高橋幸雄     道と邂逅           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥101
花田清輝     二十世紀における藝術家の宿命  ‥‥‥‥‥‥‥‥108
唐木順三     仮説の神           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥119
石川 淳     太宰治昇天          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥124
坂口安吾     不良少年とキリスト      ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥132
河盛好蔵     滅亡の民           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥147
釈 超空     水中の友            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥153
檀 一雄     文藝の完遂           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥157
埴谷雄高     衡量器との闘ひ        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥160
竹山道夫     義                ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥162
豊島与志雄    八雲書店阪 太宰治全集 解説   ‥‥‥‥‥‥‥‥168
河上徹太郎
亀井勝一郎    創元社阪 太宰治作品集 解説  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥205
福田恒存




   Ⅱ



鳴海和夫       金木町にて         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥231
古澤 ?       太宰沿と初代        ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥241
山岸外史       初代さんのこと       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥258
井伏鱒二       亡  友           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥273
田中英光       生命の果實         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥286
小山 清       風 貌             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥301
戸石泰一       青 春             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥315
菊田義孝       浮 草             ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥335
堤 重久       三鷹訪問            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥353
木山捷平       玉川上水           ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥362
大高正博       太宰 治覚書          ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥375
伊馬春部       太宰治と俳句         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥387
宮内寒弥       天分について         ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥393
佐藤春夫       芥 川 賞            ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥397
附 稀有の文才・太宰の文學



座談會 現代小説を語る      坂口安吾   太宰 治      ‥‥‥‥‥416
                 織田作之助  平野 謙


著 者 紹 介                       ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥431
研 究 書 目・参 考 文 献              ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥439




  1999年版







































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